5月のショートストーリー

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2001.5.4 『苦手』

誰だって苦手なことはある。(その反対に得意なことだってあるが)
苦手なことになると、訳が分からなくなるほど自分の殻に閉じこもっちゃいたくなるし、一日中ずっとテレビの世界に没頭したくなってしまう。
例えるなら今日。
僕はあんまり外に出るのは好きではなかった。
どちらかと言えば、自分の部屋の中でサッカーの試合でも見ているのがずっと楽だ。
なのに、「外」というものはその欲求を覆すし、「学校」とうものは常に約束というものを作り、そんな僕を外へ出そうとする。
『ゴールデンウイークの友達との約束』がそうだ。
今日も朝が来たと同時に、
「僕の苦手なことを友達としなくてはならないのか・・・・」
と思った。
途端に、もの凄く嫌な気分になり、すぐにもう一度眠りたい衝動に駆られた。だけど、人間はそんな苦手なことを「我慢」という行動で克服へ繋げるのかも知れない。
僕にどんな未来が来るかは全く解らないことだけど、「チャレンジ」という言葉があるように、苦手なものにも頑張って立ち向かい、「外」という壁に挑戦しなければならない。
もちろん、そんなことは考える前から分かっていることだけど・・・・
そんな気持ちで、朝のカーテンを開けた僕は、外に映る景色を消すように、白く息を窓ガラスに吐きかけた。
そして、白く残った息の跡に、指で「ガ・ン・バ・ル・カ!!」と書いた。と同時に、友達が鳴らす呼び鈴の音が聞こえた。
僕の外への挑戦は、このゴールデンウイークにも与えられた。
そして、実行へと移さなければならないのだった。
「外なんて嫌なのにな・・・・・・」

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2001.5.5 『生きる』

「こどもの日」と共に、ゴールデンウイークも終盤戦に入った。
もしかしたら、僕は5月病なのかもしれない、と思った。 ゴールデンウイークだって言うのに、あまり睡眠時間をとれなかったために、目の下に隈を作ってしまっている。それを見た母は心配な様子だった。
夜通し起きていた結果であるが、何故にそこまで自分の体を疲れさせてしまうのだろうか?
それは、自分自身も解らない事柄だった。
でも一つ言えるとするならば、ものすごく「今が怖かった」ことがある。
これは事実だ。
要は自分がない。これが答え。

どうして周りのみんなは笑っているのだろう?
なぜそんな笑顔を僕に向けることができるのだろう?
気持ちが落ち込んでいる時は、さらにその気持ちは高まっていった。
「何故生きているの?」
誰かに聞きたくなった。
ものすごく暗い人生がこの僕の人生。
人は常に辛さを感じていると、自分のことで一杯になってしまう。

大好きな友達から、その日、声を掛けられた。
でも、暗い気分は変わらなかった。
なぜなら、その友達はこちらの方を見て、笑っているから。
「なんで笑える?・・・・子供の日だから?」
そう思っていると、その友達は近づいてきた。
そして、こう言った。
「人間、誰だって辛いことだって、苦しいことだってあるよ。
だけど、最近の君みたいに自分の殻に入ったりはしなかったよ、僕はね。
頑張れよ。今までのお前らしくせいよ。」
そういうと、さっきまでの笑顔を変えて、くるりと背中を向けて行ってしまった。
その彼の後ろ姿を見ながら、僕は自分自身がとても卑怯な人間に思えてきた。
しかし、彼から「明るくなれよ」と言われたところで、直ぐに明るくはなれない僕だった。
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2001.5.7 『嫌なことは学校』

僕の中の嫌なことリストはたくさん、山のようにあった。
学校から毎日出される宿題、友達との気まずかったりする関係のこと、気まぐれな『自分』というこの体・・・
いつだって、そんな僕の嫌なことは、寝ている時以外は、僕の中に満ち溢れていて、しかし、これといった解決策はなかった。
今日は、いつも休んでいる学校に久しぶりに行ってみた。
と言うか、ゴールデン続きという感覚もあったからなんだけれど・・・
でも、やはり体は学校に行くことを拒んだ。
「でも、こんなことがそんなに簡単に許されるわけもないだろう」
とも思い、仕方なしに友達の本村と一緒に、自転車で登校することにした。
朝の本村は、
「なんだよお前、元気あるのか?顔色がいつもと違うぞ」
と気にしてくれて、なんだか嬉しかった。
授業が始まる前、クラスのムードメーカーが
「今日の一時間目って、先生の都合で自習なんだってよ!」
と言うのを聞いて、ホッとした。
だが、何をするのか皆目見当がつかなかった。
ちょっと不安になってきた。自習授業は始まった。
少し離れた席の本村は、先日出された数学の宿題に取りかかっているのを見て凄いとは思ったが、
僕的にはいろいろと考えることが山のようにあったので、両腕を組んで、三角の形で休む体勢を作ると、まず今日の登校の決断について考えることにした。
「なんで僕って、いつも身勝手なんだろう。馬鹿だし、学校に行きたくなければ行かなけりゃ良いのに。
友達のことを優先させるその気持ちは、いったい何処から現れるんだ?」
などと思った。
窓から見えるグランドは外の青空とは裏腹に、土に湿り気があり、昨日の雨のことを思い出させてくれた。
そして、なんだかんだ考えているうち、一校時は終わった。
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2001.5.9  『休み』

いつだって同じような風景が自宅の窓から見える。
僕の家はビルの3階。
そこからの湘南の海を見ながら、呟く僕。
「今日もまたバテている。だからってまた学校に行かないのかよ」
心も体も全く正常だと僕には思えたし、怠さだって本当はなかった。
「だったら、なんで学校に行かなかったんだ?」
学校でいつもどこかで作ってしまっている疲れに嫌気が差してきたのかもしれない。 あとは、全く解らなかった。
もちろん、それだけの理由ではない。
やっぱり、クラスの友達や学校の先生にも関係があった。
『君たちは何遍言ったら解るんだ?』
この言葉は、心の中にしつこくつきまとった。
ただ、僕はこんな風に思ってしまうのだ。
「誰だって休みは必要なんだ。こんな僕には特に絶対に必要だ」って。
そう思っていると、そんな僕に嫌気が差すようにもう一人の自分が一言こえをかけてきた。
「おまえは、ただ今の大変な時期から逃げたいだけなんだな。
今日だって学校から逃げたんだよ。」と。

もちろん、「違う!その答えは絶対に違うんだ」
と思ったが、もしもその言葉が心の本音だったら、どうしようとは思った。
けど、僕を攻めているのは、たかだかもう一人の自分だったから、心が傷ついた訳ではなかった。
もう頭の中だけで悩むのはやめようと思い、いつものビルの3階の自宅からの景色に没頭することに決めた。
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2001.5.10 『梅雨 〜終わった春〜』

気がついたら春は終わり、梅雨の季節がやってきた。
僕の心は、「ああ、もうこんな時が来たのか」という気持ちで一杯だった。
見えない曇りガラスの向こうでは、雨がしとしとと降っていた。
憂鬱な今の気持ちは、五月病みたい。やっぱり今年もかかってしまったか、と思ってしまう。
今年からの新しい環境は「学校」。
四月から毎日通っている学校は、体力的にも精神的にも限界状態だった。
五月のゴールデンウイークで、少し浮かれすぎたのかも知れないし、「楽しむぞ」と意気込みすぎてしまったこともあるかも知れない。
学校に言っても何だか疲れるだけで、体調も悪いし、一昨日は風邪までひいてしまい、学校を休むのは仕方がないことだと思えた。

クラスメートも五月病にかかる子が多かった。
遅れて登校する子。
早引きしてしまう子。
欠席をしてしまう子。
たまたま、今日の僕がそうだっただけだ。
何をする気にもならない。やる気なんか出て来やしない。
だから、ベッドの上で曇りがラスをずっと見ているんだ。
しかし僕は、そんな気だるさの中にも、「一つの希望」を見い出した。
『五月よ、早く過ぎてしまえ』
僕の中のこの思い。五月さえ過ぎれば、もうこんな辛い思いを抱くこともないのだ。
これは、全て“五月”という精神的な悪魔のせいなのだ。

仕方なしにつけるテレビのチャンネルは、いつでもつまらない。
それでも、ボケーッとテレビの世界に一時間くらい入り込んでいた。
けれど、ハッと我に返り、テレビに没頭している自分に嫌気が差してきた。
「あーーーーあ、僕はなんて不幸な人間なんだ」
窓ガラスはぽつぽつと音をさせ、雨の止むのを教えてはくれなかった。
梅雨は今年も僕に憂鬱さをくれた。
仕方ないのさ・・・・・・と思った。
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2001.5.11(金) 『もう一人の自分との対話』

「お前らしくないぞ」
ともうひとりの僕は囁いた。
昨日までの僕は、なんといっても普通に登校できていた。
昼のまぶしい光に、今日の僕は眩暈が起きそうになり、クラッとしてしまった訳の分からない体をただ見つめるだけだった。
目に映る全てのものが歪むばかりだった。
ふと朝を思い出す。
目覚まし時計を叩く自分。
『ジャファーとピンクの魔法の術』という科学の本で、その目覚まし時計を叩き、「五月蠅い!」と怒鳴る。
どうしようもない僕が体を縛った。

とりあえず、昼は学校にいた。
3時間目まで授業に出たけど、冴えるものは何一つなかった。
「なんで元気がないんだ?俺にだったら言えるだろう?」
心の中で、もう一人の僕は必死になってでも、心の中で固く閉ざしてしまったものをこじ開けるかのように、働きかけてきた。
もう一人の僕と、この本物の僕同士の話し合いは昼休みに行われた。
僕が、まず言った。
「もしも、もう一人の僕がいるんだったら、こんな迷宮に入り込んでしまったような、やる気の全くないこの僕が、どう見えるんだい?それを聞かせてくれよ」
「まず、今のお前は、全く馬鹿丸出しだぜ!少し考えりゃ、解ることだぜ。
だって、考えてみろよ。やる気がない、やる気が出てこないとぐだぐだ言っているが、それは考え方の間違いだ。人間は絶対に波があるんだ。
だから、そういう時は、保健室に行って休むとか、いろいろあるだろう。
それにだ、そんなブスッとした変な顔をしていたら、クラスの他の子だって『あいつ、どうしたのかな』と変に思うだろうよ」
「そうかなあ・・・・
解ったよ。今から保健室に行ってみるよ。けど、それが間違った判断だったらお前が責任をとれよ。絶対に」
「解ったから、早く行ってこい!」
もう一人の自分に、少し呆れては来たが、その後、もう一人のお陰で元気にはなった。
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