3月のショートストーリー

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2001.3.7 『曇り空』

  「温かい日射しが差し込んでこないかな。」
曇っている空を見上げ、心の中でため息をついた。
ーーーキーンコーンカーンコーンーーーー
ーーーキーンコーンカーンコーンーーーー
と鳴る学校の校舎の屋上に立って、見れば見るほどぐるぐると変わる灰色がかった雲。
今は昼休み。
少しだけ一人の時間が欲しくなった僕は、一人、その雲に話をしていた。
「僕ってさ、部活とかは3年になって終わっちゃったし、学校も後少しで卒業を迎えるのだ。だけど、そんな退屈な時間に何をすればいいんだよ。 今、やらなきゃいけないことはなに?」
中学生活にピリオドをうつって言ったって、ぼくにとっては行かなくなるだけの学校。
その屋上で立っているただの独りの人間。
そして、昼休みをどう過ごそうかと、考えているだけの行動。
雲は暗さを増して、いつしか雨が降り出した。
変な考えに思いを巡らせるのは、一時中断させることにした。

クラスに戻って、いつも座っている自分の席に着き、また、先ほどの考えはリピートされた。
しかし、自分の頭の中の考えだったので、いつしか、高校生になった時にどんなバイトにしようかとか、考えはずれていった。
もう、『今できることは何か』は頭のシナプスとしてどこかへ消えていったようだ。
そうして、5時間目も6時間目も授業が終わった時に、シャーペンを回しながら、またふーっとため息をついた。

いつしか、雨を降らせた空に光が射し、曇り空ではなくなった。

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2001.3.9 『春の君』

  『春の君』へと手紙を書こうと思い立った。
今日の僕は、「星座占い」も「血液型占い」も上位をキープしていて、『春の君』への手紙の内容を濃いものにしようと胸を弾ませていた。
『春の君』というのは、僕の田舎の山形に住んでいる兄のことだ。
僕は、去年の4月頃に東京に上京したのだったが、いつも田舎からの手紙を待っていた。ずーっと・・・

昨年はとある新聞社の社員になったのだが、今年になって、兄の方から『春の君』と書かれた手紙が届いた時に、僕は感動した。
『どうも、春の君。
元気ですか?そちらは、もうすっかり暖かくなってきたのかな。
俺の方は雪が毎日降っている。雪かきは春の君も知っての通り、大変です。
俺は、今もガソリンスタンドマンとして、バリバリ続けているぞ。
それよりも、たまには春の君に逢いたいな。
兄ちゃんも家族のみんなも春の君のことを心から待っています。
では、いつかこちらが春の君になる日まで元気でな』
手紙の内容はこんなものだった。
僕は兄から「春の君」のように思われて、何だか照れてしまったのだった。
兄から来た手紙は2月だったけれども、まだ僕は返事を送っていなかった。
だから、休憩時間に「春の君」である兄に、何を書こうか考えていた。
『拝啓、春の君様』などと、凄く丁寧な出だしから始めてみてはどうだろう?
内容は、心のこもった文章にしなきゃいけないな・・・・
そして、今日の勤務は終わり、帰宅すると、早速書き始めた。
『どうも、春の君様雪はまだまだ溶けていないですか?・・・・』
この文から始まる「春の君」への手紙交換は初めて行われるのだった。


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 2001.3.16 『もう一人の自分』

今日はなんだか自分にあまり自信が持てなく、頭ん中はモヤモヤの渦巻き状態だった。
朝は、もの凄く眠いし、頭ん中で考えることはゴチャゴチャたくさん山のよう。
そんな僕だったので、自分自身に“心配文”として手紙を書いてみることにした。
学校は、卒業していたのでなかった。

『拝啓。もう一人の桜井桂太殿。
最近さ、何気なく学校を卒業して、ホワイトデーも終え、今、こうして訳も意味もなく文を書く僕です。
それにしても、本当に貴方はこうして生きていって、勉強もしていって、その先、高校生・大学生、そしてその後、「大人」桜井桂太として生きていくわけですね。
多分、こうして僕が貴方にエールを送り続けるのでしょうが、その中で、「生きがい」・「夢」・「希望」と、少し悲しいですがそれらの隣り合わせにある「死」・「欲望」・「絶望」を持って生きていくと思います。
今の貴方は、「無理なことだなあ」とか「無駄な人生だ」とか「こんな事はできない」という気持ちになっているようですが、そう言う気持ちはだれの心にもついていると僕、桜井は思います。

だけど、このままじゃずうっと同じ人生を繰り返しているだけ。
もっと、自分自身や相手にとって良いことを見つけ、前に進みましょう。
いつだって、どんな時だって、くじけたり投げ遣りになってしまうこともあるかもしれません。
だけど、ちゃんと僕は一生貴方を見ているから、二歩下がったとしても次に三歩前進して、自分の道を切り開いていけばいいと思います。
だから、今をちゃんと見つめて、少しずつでも僕と一緒に前に進んでいきましょう。
では、もう一人の桜井桂太殿、ガンバレ!
                              桜井桂太』

この手紙を書き終えると、いつの間にか日は暮れて、夕日がカーテンの白と混ざり、薄オレンジ色に光っていた。
この手紙を何度も何度も読み返すと、
「結構一人で考えるだけでも、ちゃんとできてんじゃん」
と思った。
でも、やっぱり、文に書いておくだけではなく、その「もう一人の桜井桂太」と共に考えながら実行していかなければならないと思った。
この手紙は一生忘れられない宝物にしようと思った。
・・・・・「もう一人の自分」かあ・・・・・

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2001.3.30 『冬の終わり』

冬はとっくに終わり、桜の方も東京はついに満開だと天気予報で告げていた。
真はそんな3月の終わりを、ある意味嫌っていた。
「春よ、早く来い」
真のこの口癖は、いつの間にか本物の春風と共に消えてしまった。
4月になるのが鬱陶しくなったのだった。
4月の頭から始まる始業式のことを考えると、なんだか春を待ち遠しく思う気分も何処かへ行ってしまう・・・
「春よ、早く来い」と思う気持ちは、本来は
「こんな鬱な今がなくなればいい」
ということなんだなあ。そんな気持ちの表れなのだなあ・・・と真は思った。
ってことは、本当はこんな嫌な三月の終わりを楽しみたいという気持ちもあったのかな、などと思い、満開らしい東京の桜の花でも観に行こうかと思いたった。
真は絵を描くのが得意だったので、スケッチブック・黒ペン・色鉛筆の「お絵かきセット」を鞄に詰めて出かけることにした。
何処へ行こうか。真は思いを巡らした。
そうだ、先輩に絵を描いてやろう。
もう学校では会えなくなった部活の先輩。
真は美術部だった。
その部活で一番お世話になった先輩。
先輩に絵をかいてやろう。
河原を歩いていたら、桜が土手に一列に咲いていた。
何だか、気づくと、お腹がすいてきた。
真は好物のチョコレートをほおばりながら、ベンチに腰掛け、桜の木のスケッチを始めた。
先輩は元気で大学生活を過ごしていくのかな?
などと、少し考えたが、スケッチに絵を描くということに全神経を集中させようと思った。
先輩の為だったら、こんな嫌な三月だけど(だからこそ?)絵をがんばって描けるのだと思って、スケッチし続けた。
「先輩、がんばれよ」
空に叫んで、スケッチブックに絵を描くのを終えた。
体中の気力を全て使い果たしたような気分になっていた。
夕日はやっと三月に幕を閉じるかのように、沈んでいった。

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2001.3.31 『三月のあとがき』

『人』って変わってしまうんだな。
常に同じでいようと思っている僕でさえ、一日経ってしまえば、マイブックに書く内容さえ変わってしまう。
HEROは、雨が降りそうで降らない窓を見て、そう思った。
『三月』も今日で終わってしまうのだった。
今日はかすみ草を買ってきて、コップに水を入れてさした。

三月はHEROにとって、どんな月だったのかを考えようと、ぺらぺらと今までのマイブックを読み返してみた。
HEROのフィクションの中で生きている人物や、動物、生物には、何となく「共通点」が生まれてきたなことに気がついた。
なんだろうな・・・
やっぱり、まず、主人公は何かの痛みを持っていたり、いろいろな考えを抱いているだなと思う。
それから、三月は「季節」を大事にいしていたかな、とも思う。
例えば、「3月3日はひな祭り」で、パーティーをしたかったんだけど、行けない主人公が出てきたり、「ホワイトデー」「卒業式」「春休み」など。気候が暖かくなってきたとか・・・・
しかし、やっぱり、前から「これを書こう」と決めていたものが多かったせいか、もっと人物の心情を書きたくても書くことができなかったり、書きたいことを書かずに簡単に書けるものにしてしまったりしたのが残念に思う。

もっと素直な心で文を書けたらいいと思うけれど、二月の終わりにも全く同じようなことを書いたことを思うと、来月もまた鬱陶しい文は続くのだろうと思ったHEROだった。
けど、がんばるけどね。
では、四月の始まり。


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