4月のショートストーリー

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2001.4.1 「授業中」

寝ているのか、起きているのかさえ全く解らない感覚。
本当にもう一人の自分に、俺は大丈夫か?と聞きたいくらいだったけど、
確かに何かをしていることくらいは解っていた。
けれど、心の中はどうかと聞かれたら、
「何も楽しくない」
がとても正しいたった一つの事実。
学校での授業中の中、独り半分眠りについていたのは僕だけだっただろう。
隣の席の子がツンツンと鉛筆かなんかでつつく行為にすら、全く気がつかない。
これは、多分、僕の妄想が激しいほどに続いているからなのかもしれない。
「はあ・・・・来週の金曜日、テストかよ」
ボソッと言った僕の一言に、隣の子の
「お前、馬鹿じゃないの」みたいなのは、目つきだけで解った。
しかし、勉強したくないということは、大変なことだと思いながらも目を閉じている行為にも矛盾は存在したが、もう何でもいいやと開き直りながら、教科書を立てて眠りに入った。
本格的に眠りにつこうと思った数分後には、教師から痛い一発
「おい!HIRO、何故授業中に眠るんだ?」
そして、お決まりの周りからの笑いと共に、
「HIROが寝てたんだって・・・」などのひそひそ声。
もう何もかもが嫌になり、結果、帰宅することにした。
はあ・・・・・・疲れる。

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2001.4.4(一年間で一番嫌いな日)『僕は梅』 

梅の腕は、いつの間にか伸びに伸びて、自分も成長しているんだなと思った。
根本に生えている雑草たちは、茎を伸ばしていた。
もう少し経つと夏がやってくるんだなあ。

『梅』は四月が大嫌いだった。
みんなライバルの桜ばかりをを見ていくが、自分には見向きもしなかったからだ。
しかも、桜は隣に立っていたのだから、我慢することは限界に達していた。
みんなは、僕の顔どころか、腕すら見てくれないので、『梅』に生まれてきたことを恨みにも思ってしまった。

「僕は成長しているし、花も付けているのに、なんで人からは全く見られないのだろう」
心の中の叫びは、どこまでも続くのだった。

そこへ、柏の木の葉が『梅』のところにやってきた。
なんだか彼は、不満そうな僕に向かって、気の弱そうな様子で恐る恐る喋り出した。

「君はまだいい方なんだよ。だってさあ、これからも何百年も生きていられる。僕なんか、このまま落ちて、人生が終わったようなもんなのだよ。
だけど、そんな人生でも誇ってくれる誰かがいる。そう思って、僕、柏の葉は落ちた。
大丈夫だよ。梅くんには、まだ考える時間が沢山あるんだ。
じゃあね!」
そう一方的に言うと、柏の葉は落ちた。
僕の枝からハラハラと・・・
彼は涙一つ流さずに、その反対の笑顔で落ちていった。

「誇ってくれる誰かかあ」
梅の木はそう思うと、生きている自分がちょっぴりだけ誇らしく思えてきた。

それに、桜だって、わざとらしく綺麗に咲いているのでもないし、梅を馬鹿にしている訳でもないことは解っていたから、柏の木の葉の言ったことも、確かだなあと思い、梅は今が花を咲かす時なら、存分に力を発揮してやろうとそう思った。

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2001.4.5 『叶えたい夢』

昨日激しく降っていた雨もいつの間にか止み、暖かな日の光が、日本中を照らしていた。
僕の心にあるちっぽけな闇は、暖かな日の光のおかげで、ほんの少しだけ明るくなり、そのお陰でどうにか上手く生きてこれたんだと、自分の手や腕を見てほっとした。
いつか叶えたいと思っている夢に向かって生きている僕は、その『夢』についてもっと考えようと思った。
「貴方の叶えたい夢はなんですか?」
自分自身に尋ねてみた。

現実の叶えたい夢は、
やっぱり「友達関係」だった。
今まで喧嘩していた相手と何故か仲が良くなってしまったので、もちろんその気持ちのままずっと仲良くしていたいという思いがあった。
けれど、どうすればこのいい関係を継続させられるのかはちょっと解らなかった。
西の空から東の彼方へ飛んでいく二三羽の鳥を横目で見ながら考えは続いた。
今日の日射しがとっても明るいことは朝から変わらなかった。だから、勇気を出してみることにした。
今日の明るい気持ちはきっとプラスに向かうだろう。
彼とじっくり話し合うことに決めた。

前に彼と喧嘩をしていた理由も自分の中では曖昧になってきているので、彼の気持ちを中心に考えていかないとなと自分に言い聞かせた。
「喧嘩をしていたあのころは、会話も全くなかったよな」
と、前のことをいろいろ考えて、相手との会話の内容も考えてから、彼の携帯に電話をしてみた。会うことを彼は承諾してくれた。

待ち合わせ場所へ向かう途中、桜を見た。
昨日の雨で桜は散っていないかなと心配していたのだが、日射しに照らされた桜の花はまるでにっこりと笑顔を見せているように僕の目には映った。
「今日はいいことがありそうだ」
そう心の中で思った。

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2001.4.10 『自分の た・い・せ・つ なこと』

昨日の始業式を思いだす。

学校に登校する途中にて目につく、はらはらと散りゆく桜。
僕は、自分自身がこの学校の節目を迎えたことを実感していた。
学校、学校ってみんなは言うけど、何のために僕は行っているのだろう?
僕なんかは、高卒の資格さえ取れればいいやと思っているのだが・・・
今年初めての(今世紀初の)始業式での先生の言葉には、何となく刺がつきささる思いにさせられた。
「君たちの目指すものをちゃんと考えて、よい大人になろう」
これだけの言葉だったのに、胸はきつく締め付けられるような思いになった。
何だろう?
高校の先の自分・・・・。
現実として、何を考えなければいけないのか、何をすればいいのか・・・
このままだと、フリーの『プー』になってしまう。
やっぱり、自分の中で「これから」ということを考えなくてはならないのだ。
新しい年度になって、新しい組に変わって、今年度から一緒になった友達と「良かったな、一緒になったね」
などと話をする。
けれど、心の中では、「自覚を持ってもらいたい」というあの先生の言った言葉は、仲良しの友達と話しをしながらでも考えてしまうのだった。
やっぱり、まず自分から探していかなくてはならないのだろう。
そう思った僕は、午後になって帰宅してから、昨年度書いていた日記帳をペラペラと捲っていった。
昨年はどんなことをやって、どんなことが『自分』にとって大切なものだったか調べてみた。
が、そんな事で『自分』のた・い・せ・つな事など分かる訳もないとも思い、日記帳を机に置いて、桜の降る空を部屋の窓から見ながらため息をついた。

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2001.4.17 『あいつのせいだ』

一度は学校に行こうと思った。
だが、自分にできるはずがないと、すぐ断念した。
「学校なんて諦めた」
自分の中のもう一人の意外な言葉から、自分がなんだか信じられなくなるような思いだった。
けれど、行きたくもない学校だって、全てが嫌だから行きたくないのとは違う。
ちゃんとした理由があるのだ。
春まっただ中の朝、カーテンから漏れる陽差しは、僕を「外へ出よう」と誘っていた。
けれど、「どうして、外へ出たくないの?」と聞かれても、上手くは説明できなかった。
ただ、心の中に潜んでいる言葉がある。
「あいつのせいだ」今もずっと潜んでいるあの言葉・・・。

だいぶ昔の話になってしまうが、中学生の時に、クラスの担任の先生に僕だけが一人呼び出されたことがあった。
そのころの僕は活発でもあり、クラス内の学級委員をやっていたくらいだった。
担任の先生は僕を職員室内の面談室へ連れて行った。
その時の先生の表情は今でも忘れない。
僕に対する怒りを抑えきれないと言った顔。
僕は怒られるんだなと思った。
面談室に入るやいなや、
「お前、どういうつもりで学級委員をやっているんだ。‘おまえなんかに’クラスは任せられないよ。もう、本当にお前の顔なんか見たくもない」
言った途端、先生は自分の言葉がやばかったことに気づいた様子で、
「そんなことは、いや・・・・、本当は思ってはいないけどな。」
と、言葉を濁した。
「はい、わかりました」
僕は、たった一言をやっと返した。 ものすごい絶望感が体中を襲った。と同時にもう、ここの空気に耐えることをできなくなり、面談室から逃れるように、走り去った。
その日以来、二度と学校に出席することはなかった。

大部たった今も、その時に何故先生がそんなことを言ったのか解らない。
けど、もう諦めたこと。過去を振り返るのはもうやめた。

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2001.4.19 『孤独の海』

 孤独の海で、もしかしたら僕は今溺れているのかもしれない。
泪が自分の部屋にポツポツと何度も落ちるのを眺めながら、
現実とはこんなに辛いものなのか、
“生きる”というのは
孤独と絶望が常に隣り合わせにあるってことなのか
・・・と思った。

 たった1人で聴く、
誰が歌っているかも分からないピアノのCDの音色は、
もの凄くいろいろなことを考えさせた。
今の僕の孤独感や自閉的行動、
そして、僕を楽しませたり明るくさせてくれた、
遠く現在とは違う取り戻すことができない素敵な思い出。
「あの頃に帰りたい・・・」
と頭の中で考えたが、それは無理なことだった。
自分の拳を握りしめた。
もう指折り数えても、
10日ほどで、今年もゴールデンウィークもやってくるのかと
頭の中は、何故か今ではなく、一年前に戻っていた。
昔は友達も沢山いて、
その一年前のゴールデンウィークには、
相模原の川原へ遊びに行ったり、
カラオケセンターに行って唄い、
楽しく盛り上がったり、
そんなことが当たり前で・・・・。
そんなことが走馬燈のように蘇り、
泪がまたひとつ机に落ちるところを見て、
また、「あの頃に帰りたい・・・・」が頭の中を過ぎった。

 誰だって孤独になってしまうことはあるのだと
一年前に皆で撮った写真をフォトアルバムから取り出してみたが、
また辛い気持ちになることは解っていたので、
すぐさましまってしまった。

「孤独の海で溺れたくない。」

そう思う自分がいたからだ。
 今日は雨が降っていた。
バックミュージックの誰が歌っているか分からないピアノのCDは
そんな僕を少しでも励ましてくれればなどと思っていた。

憂鬱な日は誰だってある。
天気のように雨になったり曇りになったりもするのだと思いながら、
プラス思考になれないかと色々考えてみた結果は、
眠るしかないと思った。
眠って眠って、
そしたら、こんな辛い孤独の壁から抜け出せるかと思ったからだ。
結果はどうなるかは解らなかったが、
CDプレーヤーのスイッチを消して、眠りについた。

 外は雨の音が凄かった。

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2001.4.20 『少し元気になれた日』

昨日とはうってかわって、晴天。
天気予報では梅雨を祝福するように報じていたので、てっきり雨だと思っていた。
天気予報も曖昧なものだなあ・・・ だが、この自分の天気だって、昨日の「孤独の海」からまるで泳ぎ切ったかのように元気に変わっていた。 星占いでも「蟹座」が首位。
なんでだか、今日もやっぱり生きている。
という事は、常に誰かが何処かで自分を支えてくれて、そして、自分自身ががんばりきれるから、こうして生きていけるのかな、などと思った。
涼しい風が登校中の電車の中で吹くのを肌に感じながら、
「僕も今日から学校でがんばるぞ」
という決意が胸に漲ってくるようだった。
そんな気持ちで、学校に向かった。

午前8時ころ、校門に留美が何故か立っていた。
そして、僕の方を見て、手を振っているのだった。
「なんだろう?何故留美が僕に手を振っているのだろう?」
留美という子は、ただのクラスメート。同じ教室で勉強するだけの人、しかも、留美と話をしたことはほとんど無い。
だから、僕に手を振っているのではなくて、僕の後ろの誰かに手を振っているのに違いないと思った。
「僕の勘違いさ」
そう思って、留美を無視して校門をくぐろうとしてた。
その途端、留美は僕に声を掛けたのだった。
「ねえ、私が手を振っているのに無視しないでよ。」
「え?なんで手を振ってくれたの?」
僕の言葉に、留美は呆気にとられた顔をした。
それから、留美はプッと吹き出して、
「だって、今日の君、いつもより元気なんだもん。何だか声だって掛けたくなるよ」
急に話しかけられて、僕はビックリするしかなかった。
ただ、留美が僕に言ってくれた「今日はなんだかいつもより元気なんだもん」の言葉が嬉しく僕の心に響き、その後で留美とどんな会話をしたのかは忘れてしまったが、自分の体が宙に浮いた気分、つまり最高の気分になっていた。

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2001.4.23 『失敗』

木の下に立って、深く息をした。
何かが聞こえてくるような気がした、
ふっと周りを見渡しても、誰もいないことに気がつき、その日は家に帰った。
何故だか、自分のとったりする行動が全て失敗してしまう気がした。
何が?と思うが、例えば、こうやって生きている訳も全く解らなかったし、
『誰かを言葉という武器で突き刺してしまいそうだ』
というのが理由の中で大きかった。
・・・・どうしよう。
もう、死んじゃえばいいのかなあ、とまで残酷にも時々思ったりもする。
多分、本当の自分はちゃんと分かっているのだろうと思う。
自分は、本当は元気でプラス思考で行きたいと思っているのだ。
そんなマイナスな事を思いたい時は、誰にだってあるけれど、あまり考えすぎてはいけないということくらいは・・・・・
ただ、「失敗はしたくない」という思いがあるから、プラスの考えはマイナスになったのだと思う。
相当、学校のことを頭の中で考えすぎている僕がいる。そういうことだと思った。そして、今日も、桜が散ってしまった道を、たった一人で学校に行かずに歩いている自分がいる。・・・ということだとも思った。
今日もまた、あの木の下に立って、深く深く深呼吸をした。
少しそよぐ風は、僕に、
「失敗なんて、やっぱり考えるなよ。だって、失敗は成功の元というだろう?」
と告げているようにも思った。
「そうだよなあ。今十七歳。人生のうちの青春時代がこれでいいのかと思うし、学校にいかなくてはならないという考えは頭の中で意識している。
失敗したって、いつかそれを糧にしていくというのもいい考えだ。
どうかな、桜の木?」
桜の木は、僕に何にも答えてくれなかった。
やはり、それくらいは自分で考えろ!とでも言うのか?
そう思いながら、トボトボと家へと向かった。

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2001.4.24 『バスの不安』

朝、バスに乗って登校した。
「あーあ、青春てそんなものか?」
そんな風に思いながら、缶詰のようなバスの中で、移り変わる景色を見ていた。
学校へと今日も僕は行き、行き帰りの2本のバスに乗る。
ため息を吐く僕・・・・
「これが、今まで僕が夢見ていたものなのか・・・・?」
学校に到着して、気がつけば勉強して、授業が終わると友達と遊ぶ。
休日が来たら、友達と何処かへ行く。
ディズニーランドなんかに行っちゃってさ〜、そりゃ、楽しいよ。
楽しいけれど、これが僕の人生?と思った時、
毎朝の髪のセット。
制服への着替え。
何処にでもある、ありきたりな毎日。
駅までの自転車。
そして、バスに乗る! バスに乗ったら、揺られ揺られて・・・・
それが僕の人生。
この人生が「この俺の人生?」と問いにかかる。

周りのみんなとか、親とか、先生は、
「今がスタートだよ。頑張って!」
などと言う。
けれど、なんだか、あんまりピンとこない。
たぶん、「今」に自信が持てないのだ、ということは確かだと思った。

“緑の世界”がこの世界に今年もやってきて、そんな自然の中に僕がいて、バス停でバスが「ブー」っと止まった音を聞くと同時にみんなで歩いていく。
「あーあ、またこうして今日が始まるのか」
僕は、ブツブツいいながら、校舎に入っていった。
けれど、本当は、心の何処かで解っているんじゃないかといことは、ハッキリしていた。
人生はこれから。
失敗だって、不安だって、いつも常に僕につきまとっている事だって解っている。
ただ、人生のことを、「今は駄目かもしれない」と考える機会なんて、考えてみれば、なかなかないものだからと、そう思うと、今日の授業も何故か受けられる気がしてくる僕だった。

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2001.4.28 『たんぽぽ』

ある日、僕は目が覚めたと同時に思った。
「まだ、この蕾が開かないんだなあ。早く開かないかなあ」
起きたての体を細めながら、根から茎へと朝の栄養を吸収した。
そんな僕はたんぽぽ。
何処にでもぽつぽつと生えている、河原の土手沿いの小さなたんぽぽだった。昨夜降った雨は、今日は、僕の葉の下に、雫としてポツリと落ちた。
自分自身はなんて馬鹿なたんぽぽなんだろう、と考えた、
何故かと言えば、今まで僕が生えているのに、この黄色い花びらを開花させる力が今ひとつ出ないのだ。
毎日のように、隣や、前、後ろの方で咲いている連中に、
「何だよ、お前は。昼間に花を咲かせるというただ一つのことさえできないのか」
と、言われる位は全然慣れっこであったが、ただ自分自身が許せなかった。
何故僕は花を咲かせられないのか・・・・
そう思い、頑張るしか術はないのであった。

ところで、今日は天気の良い週末。
子ども達が大勢、この河原に遊びに来た。
僕が生えているところの近くでは、子ども達が日曜日には草野球をやっていた。
僕はようく耳を澄ましてみた。
キャッチボールをやっている子ども達の声が聞こえてくる。
「今日は土曜日だから、いつもの子ども達は来ないのかなあ」
と一人思っていると、
「明日の練習といきますか」
と、二人組の男の子が、練習を始めたようだ。
そのうちに、一人の男の子がこっちに近寄ってきて、僕の上にどすんと尻餅をついた。
「イテテテ・・・、あれ?このたんぽぽ、まだ咲いていないのか。
駄目だなあ。俺が開けてやるよ」
そう言うと、その子は僕の蕾をものすごい勢いでこじ開けてきた。
その時は、
「もう仕方ない、開くか」
という気持ちになり、フワーッと一遍に開いた。
開いた途端に、辺りの景色が一度に飛び込んできた。
視界は一気に開けた。
辺りは、黄色いたんぽぽ畑だった。

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2001.4.29 『時の砂』

四月の終わりと共に、今日はみどりの日でした。
緑は僕の友達でした。君の笑顔は、いつも元気の源になっていたり、生きる支えになっていました。
僕は、幸せいっぱい緑に貰い、これからもずっと緑と一緒に生きていけたらいいなと、心の何処かで思っていました。
それが、僕の幸せでした。
ある日、僕と緑は夏が待ち遠しく思えてきて、ある砂浜の海岸に遊びに行くことになりました。
緑はこの日、ビーチボールを持ったり、時々、この荷物は何処に置いたらいいんだろうという顔をして、そのキラキラした黒い瞳を僕に向けてくれましたが、
僕は心の中で、(大丈夫だから、緑。ゆっくり丁寧にやれば)と思っていました。
そして、僕と緑の友達としての時間が少しづつ経っていき、二人で砂浜の砂で砂の城を作ろうーーー(まるで無邪気な子供のように)ーーーということになりました。
僕たちは、昔の古そうな城を造りはじめました。綺麗な灰色と白がかった砂。今思うと、それを見ていた緑の顔つきが少し暗かったように思い出されるのです。
その時の僕も少しはそれが気になりましたが、こっちの思い過ぎかとも思い
その場は、しばし砂の城作りに没頭していました。
一生懸命に、僕が作れば作るほど、緑の顔は複雑になるばかりでした。
そしてーーーーーーーー
気がついた時、緑は姿を消していました。
そして、その日より、緑は僕の前からいなくなってしまいました。
残ったのは、僕と砂の山だけでした。

今日はみどりの日でした。
と同時に、僕の前から緑が消えてから丁度一年間経った日でした。
それを思い知らされました。
緑と共に撮った写真、海での写真を見ながら、時の砂のようだったあの頃を思い出すだけで、僕は胸が痛みました。
何故、緑はあの時からいなくなってしまったのだろう?
あの時、緑の持っていたビーチボールが、まるでこっちを見ているかのように、光っていました。
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2001.4.30 『四月のあとがき』

今月の花「かすみ草」のような、切なくもありはかなき四月も、今日で終わります。桜が散ったと共に、HIROもこの切なさを痛いくらいに感じています。
来月の花は、スズランらしいです。
著者が一月から三月までの期間は「HERO」だったのですが、今月から「HIRO」になりました。
まだ、某病院に入院中のHIRO。
HIRO著作的には、今月がスタートだったから、「何を書こう、何を書こう」と、一応工夫はしたけれど、「あ、今月も終わってしまうんだ」という空しさもあります。
今月のHIROの文の中で一番印象的で、心の中にずっとあったのは、HIROのどこかにある“孤独感や絶望感”と、ほんの少しの“希望”がテーマだったことです。
毎日学校に行きたくても本当は行けない主人公を、無理矢理に行かせてしまうHIROは、どこかで自分の気持ちを試しているのだと思います。
また、心の中で思っている辛いことや、何もやる気にならない絶望の気持ちを綴った文章。これは、四月になってから多くなって来たかなと思います。
HIROの心の中にいる主人公たちは、孤独になってまでこの『マイブック』に出てきて、再度、HIRO自身が読んでみると、「何」を訴えているのか、何故か聞こえてきました。
そういう意味では、四月は大切な出会いの時期なのに、主人公を一人にさせたのは、HIROの「一人になりたいこともあるんだ」という叫びなのかもしれません。
来月五月から12月まで、著者名をHIROで続けていこうと思っています。
HIRO自身が大丈夫だったらだけれど。
最後に今年の三分の一を書き終えてしまって、少し寂しい気持ちにもなっています。
けれど、無事にこの『マイブック』が12月に終わることを、常にHIROは自分に応援して頑張ります。

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